岸本千佳さんに聞く 不動産プランニングの可能性(京都)

インタビュー 2020年11月
関西支部だより+ 35号(2020年11月版)
特集「コロナ以後の新しいエコシステム」Vol.2 

インタビュー記事
岸本千佳さん(不動産プランナー、アッドスパイス代表)

日時:10月20日 場所:オンライン
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:コロナは人々の価値観をどのように変えつつあるのか. 新たな価値観は人の行動やワーク・ライフスタイルをどのように変容させ,それは都市と地方の関係をどのように変容させるのか.京都の不動産プランニングを切り口に,アッドスパイス代表の岸本千佳さんに語っていただいた.

岸本千佳さん(不動産プランナー、アッドスパイス代表)

岸本:自己紹介から始めると、私は建物とまちのプロデュースを仕事にしています(https://addspice.jp)。建物を持っているオーナーさんから相談を受けて、それに応じて企画をして、チームを編成する。設計・施工・デザイナーさんなどを見つけてきて工事をして、借りる人を見つけて運営管理をする、という一連の流れを自社で行います。相談される方も最初からイメージが決まっていることは少なく、それを一緒に考えるという場合が多いです。建物やまちの特性、オーナーさんの性格や財政状況とを組み合わせて企画提案しているのが特徴です。不動産屋さんや設計者の方にお願いしにくい、一筋縄ではいかないような案件が多いです。例えば木賃アパート一棟とか立派な町屋とか、エリアで複数件建物を持っている方などのご依頼が多いです。

大学では建築を学んで、不動産の会社で勤めて、前職では東京のほうでシェアハウスを多く作っていました。投資家の方の依頼を受けて、今と同様の企画プロセスで行っていました。地元が京都ということもあり、2014年から京都に戻ってきました。建物が魅力的で同じようなプレイヤーの人もあまり多くなく、より面白いことができそうだと思ってのことでした。

編委:最近扱っているプロジェクトを教えてください。

岸本:今は、京都北白川にある木造賃貸アパートの1階を工房と共用部、2階が住宅の工房住宅として進めていたり、京都の中心部で開発業者さんからの相談を受けて、市中の山居をテーマに街なかで静かに集中して仕事ができるようなシェアオフィスを作ったりしています。

木造の7戸くらいの長屋の相談に対しては、最低限の改装で工房+住居+店舗にしてコアな入居者が入っています。コンセプトを強く立ててちゃんと趣旨に合うような借りる人を見つける、というのがオーナーさんから求められていることかなと思って、そのあとの運営を一緒に行っています。

編委:事業主はオーナーさんだけど、物件をエリアでどうすれば一番うまく使えるかっていうのをコンセプトから作って、ハードは工務店などに任せるんですか?

岸本:設計も最近は内製化し始めました。工事は規模に合わせて都度チームを組んでいます。客付け、リーシングまでしっかりできるというのが自社の強みだと思っていて、自社で借りる人を見つけて面談もしていますし、未改装の段階から募集を重ねています。先ほどの北白川の物件も着工前ですが、入居者は決まっています。最近はそういう人をストックすることも覚えてきて、条件に合う人に案内するような形にしています。

編委:ビジネスモデルはどのようなものになっているのでしょうか。

岸本:企画・仲介・管理で少しずつもらっています。人間関係をじっくり作っていった1個のプロジェクトに深く関われないのはもったいないので、そこを管理で回収していきます。関西は東京に比較すると企画費にお金を払いたがらない傾向があり(笑)、設計と合わせることでお金をいただきやすくなったなとは思います。

最近では、規模も大きくなってきつつあります。最初の方は、経験のあったシェアハウスで多く実績を積んだり、京都では地主さんの紹介で仕事をしたりしました。設計した後の入居者と地元の方との関係づくりまで意識しています。京都の路地奥の案件ではオープンハウス兼マーケットのようなことも企画しましたが、改装前後の見学会など近隣対策はしっかりするようにしています。これは東京とは全然違うなとは思っています。

編委:京都での、昨今の地価の変動やインバウンドの伸び、コロナでの変化など、最近の不動産の変化をどう見ておられるかを教えていただけますか。

岸本:私はインバウンドバブルみたいなのは不健全だなと思っていたので、インバウンドを仕事としては扱わないようにしてきました。早かれ遅かれ、終わりを迎えると思っていました。それがコロナで予想より早く来たなと思っています。もともと危機感を持っていた人もいて、準備していた人は準備しています。

最近は宿泊の後の用途の相談は増えています。が、宿泊より収益を上げられるものもないので今はそのあたりの説得から入るような感じです。京都の中で、宿泊業で食べているような市民の方は結構少なくて、みなさん冷静な目で見ている方が多いなという印象ももっています。コロナによって異常な高騰が正常に戻っていくという面もあるのかなとは思います。

turedure:つれづれnisihijin 職住一体、マーケット見学会、工房兼住居の例

編委:コロナで都心部が見直されている中で、住宅やほかのニーズの変化などはありますか?

岸本:コロナ禍で東京から京都に移動する人が増えている気がします。地方の不利みたいなのがなくなってきたのか、7月以降で地方に移動する人が増えていますね。東京の利便性がリモートによって魅力ではなくなると、金額、周辺環境の魅力、都心の利便性のバランスで京都などに魅力を感じる人が増えていると思います。

住居や店舗の入居者のニーズが結構増えていて、職住近接の住居兼○○みたいなもののニーズがものすごく増えました。コロナと関係なくもともと狙っていたものでしたが、コロナでものすごく問い合わせが増えていて、ちゃんとやった方がいいと気づきました。子育て世代からの職住近接のニーズなどは1月ごろからぼんやりと考えてはいました。住み方に関してはコロナで急に変わったというよりは、もともとそういう素地はあってちょうどコロナで加速したという感じで思っています。

編委:最近は西陣を拠点にされているようですね。東京との違いや京都ならではの特徴はありますか。

岸本:西陣エリアは、真面目に想いを持って取り組むと信頼してくれるところが京都らしくていいなと思ったのと、モノを作る人と学生にとても優しいという特徴があると思います。駅が少なく便利ではないので開発されにくく小さい規模でも取り組みやすいです。東京では会社の大きさで判断されやすかったですが、京都、特に西陣の人たちは個人でもこれまでやってきたことや想いを重視してくれます。

リーシングは関西圏だけで他の地域は企画までですね。運営までやるのは京都以外だと難しく、それは京都という土地柄が自分に合っているからだと思います。自分がやっている物件が集積してくると、物件同士の関係性や、エリアでの柔軟な物件の紹介などまちを気に入っている人を集めやすく、リーシングやオーナーさんの説得に良い影響があります。

編委:まちとの関係はどんなことを意識されていますか。

岸本:企画するときは、まちの良さや魅力を吸い取って企画しているところもありますし、物件ができたらまちに放出・還元するような意識があって、まちと物件が互いに影響しあってぐるぐる回っているような感覚はあります。

まちのなかで、借りられたテナントさん同士での横のつながりがあって、ビジネスが大きくなったり家族構成が変わったりなどを理由に、場所を移りたいがいい物件はないかという相談もあります。他にも初期から扱っていた工房兼住居だと「工房のにおいや木くずなどが生活空間に入ってくる」などの、モノづくりをする人のリアルな声が拾えるようになってきて、扉でうまく空間を分けるといった次の企画ソースになっていて、エリアのなかでの展開もあります。これは同じエリアで取り組む利点かなという気がしています。

編委:掴んでいる具体的な暮らしのニーズのパターンがすごく多様だと感じました。どういう風に多様なニーズを掴んで、ターゲットにうまく刺さるようなイメージができるようになったのか、教えてください。

岸本:300戸のマンションを作るわけではないので、100人いたら10人くらいが強く欲しいと思うようなものを作るというような仕事だと思っています。こういうもの(尖った企画)だったら入りたい人がいるんじゃないか、っていうものを作っている感覚はありますね。住宅は選択肢が少なすぎるので、これっていうものを作れば刺さる人はいるだろうなと思っています(たとえば既出の西陣のシェアハウス:https://addspice.jp/case/sharehousepathto/)。

あとは、個人的に世代をこえて友達が多くて、60代の女性の知人たちや、母親の友達とかから話しをきいて、暮らしのニーズを見るような目線にはなっていると思います。いろんな人の話を聞ききながら考えています。たとえば、オーナーさんのお父さんの話を聞いて80歳でもPaypay使えるんやなとか、そういう小さな気づきも含めてあんまり仕事とプライベートを分けずに、年齢問わず付き合いをしていることで、引き出しを増やしているかもしれません(笑)。

編委:実際の改修では、空間の像をどの程度イメージして設計者とどのように進めていくのか教えてください。

岸本:過去事例の仕上がりを見て設計者を選ぶということはあんまり無くて、施主との相性とか建物の規模や内容による得意・不得意を優先しています。関西は比較的建築家が多くて助かっています。京都の例ですが、大きい町屋の中に店舗が3つあるものがあります(既出の中宇治のyorin https://addspice.jp/case/nakaujiyorin/)。オーナーさんの趣旨としては長く住んで使ってくれる人がいいとのことだったので、京都の店舗で私の周りでも長く人気の店を設計している人を探して、かつあまり作家性が高くなく施主と話し合って作るような人を選びました。自分でも実際にその人の店に足を運んでみたり、知り合いというよりは紹介してもらったり、オーナーさんの趣旨に合う人を探すような感じです。

空間の像については、私自身は人が空間を使っている様子が見えている感じで、用途とかここでこう使われていてほしいなとかのイメージがあります。内装がどうとか空間の細かいところはその後ですね。

編委:最後に都市計画やまちづくりをやっている人へのメッセージをお願いします。

岸本:しばしば疑問に思っていたことがあります。不特定多数の人のための公共空間って多いと思うんですけど、それが本当に一人一人にとって、どれくらい心地がいいのかと疑問に思うことがあります。コロナ禍では、特定少数のための場が重要になっていくと思っていますが、一人にとってどれだけ心地がいいかみたいなのが、これから追究されていってもらいたいと思います。

(編集担当:泉英明)

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